Presented by 福岡の弁護士/島総合法律事務所

事業承継

事業継承
農業ビジネスの基礎知識

事業承継の必要性

事業継承

現在、農業に従事する方の高齢化が進んでいます。高齢になり、農作業に耐えうる体力がなくなってしまえば農業を続けていくことはできなくなります。このような高齢の農家の方が若い世代に農業経営をうまく引き継げないと、日本の農業はどんどん衰退していってしまいます。

日本の農業を守るには、これまで農業に従事してこられた方のノウハウを受け継ぎ、農地や施設を有効に活用していくために、若い世代への事業承継を行っていく必要があります。

農業従事者の高齢化に伴う事業承継では、かつて親子間で承継することが一般的な時代には、子が承継しない場合には廃業するケースが大半でした。親が農業を継いで欲しいと思っていても必ずしも子どもが農業に関心があるとは限りません。親子間での承継ができなければ廃業するしかない、ということになれば日本の農業は先細りするしかありません。

日本の農業を守るには親子間で事業承継ができない場合には第三者への事業承継がスムーズに行われる必要があります。

参入希望者から見た事業承継の魅力

事業継承既に述べたように、6次産業化の取り組み等により農業は将来性ある分野であり、参入を希望する若い世代も少なくありません。そのような参入希望者にとっても既に農業を営んでいる農家からの事業承継はとても魅力的なものです。

参入希望者が事業承継を受けることなく参入する場合、個別に農地を取得した上で、耕作地として整備し、農機具も新規に購入しなければいけません。また、実際に農業を行う上でのノウハウもありません。収穫した農産物を販売するルートも新たに開拓しなければいけません。さらに、地域で農業に従事するには近隣の農家、商店との人間関係を築いていく必要がありますが、一から人間関係を築いていくのは簡単ではありません。

これに対し、農業に従事していた方から事業承継を受ける場合には、既に耕作地として整備された農地を取得することができ、農機具も耕作に必要な農機具を取得できます。また、農作業を行う上で必要なノウハウも学べ、農産物の販売ルートも引き継ぐことができます。また、地域での人間関係も一から築き上げるよりも、それまで農業に従事していた方から紹介を受けることでスムーズに構築することができます。このように事業承継を受けることは農業参入を希望する若い世代にとっても非常に魅力的なことなのです。

事業承継の対象と方法

事業承継を行う際に承継される対象は、農地、農業機械、農業施設、農産物の貯蔵施設、加工施設、事業資金といった有形の資産と農業技術、ノウハウ、仕入先や販路についての契約関係、従業員を雇用している場合には従業員との雇用関係といった無形の資産があります。

後継者に農業経営を譲り渡そうとする方が個人の場合は、有形の資産についてはそれぞれ個別に譲渡することになります。これに対し、譲り渡そうとする農業経営者が農業経営を法人化している場合には、株式を譲渡することで事業承継を行うことができるので個別に農地の移転の手続き等をする必要がなくなります。

個人経営の場合は、有形資産の移転に加えて農業技術、ノウハウや仕入先や販路についての契約関係、従業員との雇用関係といった無形の資産の移転についてもきちんと契約書に記載することが重要です。

法人経営の場合には、仕入先や販路についての契約関係、従業員との雇用関係は、法人が当事者ですので、株式を引き継ぐことにより、それまでの契約関係は維持されますが、無用なトラブルを避けるためにも仕入先や販路についての契約関係、従業員との雇用関係、農作業のノウハウといった無形の資産の内容については、株式の譲渡の際に正確に譲受人に伝えることが不可欠です。

事業承継での注意点

十分な意思疎通

事業承継を円滑に行うには当たり前の話ですが、事業を譲り渡す側、譲り受ける側の十分な意思疎通が不可欠です。事業承継では、譲り渡す側の希望と譲り受ける側の希望をどのように調整するかという問題が必ず生じます。後になって「こんなはずじゃなかった」「そんな話は聞いてない」というようなことがないように、お互いの希望をできるだけ明確に具体的に相手に伝えておかなければいけません。

また、意思疎通が十分に行われることで、譲り渡す側は、譲り受ける側の農業の経験、知識、人間性、資金調達の可能性等を把握することができ、譲り受ける側が農業経営を安定して行うことができるような人物かを見極めることが可能となります。他方で、譲り受ける側も、譲り受ける側の農作業のノウハウ、生産性、販路に関する情報、経営状態等把握することで自分が果たして承継後にきちんと経営していけるかという点について確認することができます。意思疎通が十分に行われないまま事業承継が行われることは双方にとって不幸なことです。

承継前の就農体験、研修の実施

事業承継を行った後に、「こんなはずではなかった」というようなことにならないために、正式に事業承継の契約を締結する前に、実際に就農体験をしてもらい農業技術やノウハウを教えることも必要になってきます。その際には、それまでの作業記録や農産物の生育記録、収穫記録といったデータも開示する必要があります。

また、農業経営においては、農作業の技術、ノウハウと営業能力がいわば車の両輪のような関係になります。ですから、農業技術や農作業のノウハウに加え、経営面についての販路に関する情報、経営状態についての情報の開示も必要になります。

さらに、農業経営において必要な人間関係の構築について、研修段階で、肥料、苗等の仕入先、農産物の販売先といった取引先や協力関係が必要となるような近隣農家への顔合わせなども済ませておいた方がよいでしょう。

契約書の作成

譲り渡し側、譲り受け側双方で十分に意思疎通が行われ、双方の希望内容の調整ができたら、合意した内容について事業承継の契約書を作成する必要があります。契約書を作成しておかないと、そのときは合意していても、後に言った、言わない、といったトラブルが生じかねません。弁護士等の専門家に依頼してきちんと契約書を作成しましょう。